唐突だが、人生が180度変わってしまったなどということがあっただろうか。
例えば、ゲームマニアだったのに、いきなりゲームのゲの字も見たくない。というような壮大な変化が。
俺は無かった!…と主張したい。
まさか、あんな事が、あんな些細なことが俺の人生を大きく変えてしまうとは。
まぁ、よく言ってしまえば充実した生活を送れそうだが、悪く言えば今まで裏の世界に身を投じていたのに急に表の世界に引っ張られてしまった。そう言うべきだろう。

―何が起きたのか・・・それを話すには実際にその場面を見た方が手っ取り早いだろう。・・・いや、決して話すのが面倒って訳じゃないんだ。
俺の口から話すより、見た方が速いと思ってだな。
 まぁ、とにもかくにも。それでは、戻ってみる事にしましょ〜。
それは、春桜学園の入学式。
春桜学園ってのはキョウトにある公立の名門進学校で、キョウトの中で一番高い位置にある共立の高校だ。
そこに、後でごたごたに巻き込まれる一人の男の姿があった。彼の名前は三木龍司。
学生服に身を包み、長身で地にまで着きそうな黒髪が何よりも特徴的である。
彼がこの学園を選んだ理由は、親に条件を出されたからだ。どんな条件かというと、この学園に入学する事ができたらPS3・Willを買ってくれるというのだ!彼は無類のゲーム・アニメ好きであるため必死に勉強・・・はしなかったが、そこそこ勉強するだけで入学する事ができたわけである。
この春桜学園、東京では一番の名門校なのだが、彼はそこそこ勉強するだけで受かったというのである。
よほど頭が良いというのだろうが、何てずるい奴なんだ!
俺なんてなぁ〜、俺なんて……
―って俺の事は置いといて。
こいつは、いたって真面目で無口なんだよなぁ〜。周りからの印象は。
ところがどっこい!実はこいつは……ってあんま本編の話をするのもあれだしな。
まぁ、問題が起こるのは入学式があって6ヶ月後だしなぁ、それまでこいつの行動や言動を見るっていうのは楽しいぞぉ!
とまぁこんなところかな。
―っと、自己紹介を忘れてたな。
俺の名前は、光 翔(ひかり しょう)って言うんだ。名前が二文字ってすごいだろ。もっともひらがなに直すと5文字なんだけどな。いや、6文字か。髪は銀髪。この学園の生徒会長をやっている2年生だ!どうだ驚いたか?(ここは素直に驚こう)
まぁ、髪は生徒会長なんてやってるもんだから黒のかつらを付けているんだけどな。
軽い状況説明はこのぐらいにしておきましょう。
“戻ってみましょう〜”なんて言っておきながらいまだ戻っていないですしね。
俺とはいずれまた会うことになるだろう。
では、秘技、ターイムスッリップ!


第一話「朝の光は天使の光…だと思うのは錯覚だろうか」

三木龍司、それは確かに俺の名前だ。
……あれ、なんで俺はそんな事言ってるんだ?
朝の光、それは太陽の光。その光は今、俺の部屋の中を照らしている。
いつもの俺ならば、この光で難なく起きる。だが、なぜか瞼が重い。
おかしい、昨日は夜更かしなどしなかったのに、なぜこうも眠たいのだ。
朝の光では俺を眠気から覚ます可能性を秘めてはいない。
また寝るか。
そう思った。しかし今日は入学式、遅刻するわけにはいかない。重い瞼を顔を洗う事で覚まさせようとする。
だが、瞼は依然として重いまま。部屋の中をぐるぐる回って見たりもした、しかし結果は変わらなかった。
仕方なくそのままの状態で軽い朝食を取り、家を後にすることにした。
「いってきます」
誰もいない家にその言葉を告げて。

俺が今日から通う学校、春桜学園へは片道約3時間。
始めはバスを使い、電車、そしてJRへと乗り換える。
疲れる。はっきり言って。
特に学園間近のとても長い坂。傾斜がなんと45度はあるそうだ。なんでも、山を切り崩して建てた学園らしい。
山の上に立てるメリットといえば、学園の敷地が広いって事と学園から眺める景色が綺麗だって事ぐらいだろう。
なぜ俺がこの、通うのがとてつもなく面倒なこの学園を選んだかというと、全てはゲームのため!ただそれだけだ!
だが、本当にこの坂は辛い。
以前この学園の入試を受けに訪れたのだが、次の日には動くことすら出来なかった。中学の頃陸上部で、全国優勝したこの俺が。
もっとも、女生徒だけは特別にバスが使われる。学園前まで行くバスが。
――正直ずるいと思う。
今日でここを通るのは2度目になる。通っていれば、足が痛くなくなる事を祈って、今は我慢すべきだろう。
意を決して、止まっていた足を再び動かす。
坂の半分ぐらいに差し掛かった辺りで俺は、息が切れた!
この坂、どのくらい距離があるんだ!?
ブォォォン・・・
…俺の横をバスが通り過ぎる。
しかも、悲しいことに誰も乗ってはいない。
「…俺を乗せてくれ〜!」
悲痛な叫びはバスを止めることなく、空に消えていった。は冗談で、ただたんに登っていっただけなんだけどな。
しばらく歩いていると、先ほど通り過ぎたバスが戻ってきた。しかし、俺の横を
「……過ぎ去った〜!?」
バスは俺を無視して坂を下りていった。もちろんバスに人はいない。
なんて、意味の無いバスなんだ…
俺はその場で呆然とした。
――はぁ、男は楽をするなってか。
再び動き出す。この長い坂をひたすらと。
これを毎日続けることを考えると、やるせない気持ちになる。

ひたすら歩き続ける事40分。ようやく坂を上り終えた。
「ぜぇ、はぁ。ぜぇ、はぁ……」
すでに肩で息継ぎをしている。本番はこれからだというのに。
先にも言ったとおり、この学園は敷地が異様に広い。
どのくらいかというと、1棟、つまり一つの建物に教室が10室ある。学園内の棟は全部で20棟。さらにその全ての棟は1階だけなのだ。もっとも、何故か建物の高さが3階建ての建物の高さと同等ぐらいあるのだが、これに意味はあるのか?と思ったりする。
「で、体育館はどこなんだ?」
したがって当然広いので迷う。
まずは地図を探さないとどう動いたらいいのか全く分からん。
――んっ?
俺の視線の先に、そいつは現れた。
体育館が。
……やっぱ、分かりやすいな。
どの建物よりもひときわ目立っている体育館。なぜ金色なんだろうか?まぁ、印象強くて入試のときに来て頭に焼き付いていたのだ。
もしかして新入生が迷わないようにか!……そんなわけないか。
とりあえず俺は疲れきった足を動かし、体育館へと向った。
シーン…
「誰もいない……」
俺は腕時計を見る。
って、まだこんな時間なのか。
時刻は7時30分、入学式開始は8時30分。始まるまで1時間はある。……やっぱ流石に4時30分は早すぎたか。
さてどうしたものか…
「あっれ〜、もういやがる」
低い声。エリートと思わせる感じの声だ。180あるだろう身長に肩まで伸びた黒髪。そして右手には扇子と。なんか漫画とかに出てきそうな生徒会長だ。だが、生徒会長ではないだろう。
「って、お前新入生だよな?」
突然の質問に俺は驚いた。そして、硬直。
「・・・」
……
「ってなんか言えよ!」
はっ。
「ああ、はい、そうですが」
「やっぱりな、しかし、男が来るとはなぁ、……さてはお前!」
急に姿を現した男はかっと目を見開き、こう言った。
「女子が目当てなのかっ!」
「違いますっ!」
すかさず俺は反論した。
「じゃあ何だって言うんだ?女子が目当てじゃなきゃ、あのきつい坂を上ってくる理由は?」
「うっ、そっそれは」
俺は言葉に詰まった。こういう人に自分の弱みとなる物を握らせたくなかったからだ。
「景色です!」
だから俺はこう言った。
「ちっ」
あれ、今軽く舌打ちしませんでしたか?
「まぁ、確かにここの景色は目を見張るもんだ」
「ふむ、景色か・・・」
そう、ぶつぶつ言いながら先輩、(たぶん)歩き去った
。 くるーり、スタスタスタ。
先輩が急転回し、こちらに向かってきた。
「あ〜そうそう、お前暇だろ?仕事を手伝え!」
「仕事・・・ですか?」
俺はしばし考え、
「嫌です」
簡潔に答えた。
「答えは聞いてねぇ。おら行くぞ」
俺は先輩に襟を掴まれ連れ去られた。抵抗をしたがさすがというべきかあの坂を俺より長く上っているためびくともしなかった。

「ほら、きりきり運べ。間に合わんぞ」
「なんで俺がこんなことしないといけないんですか」
「用意してないからに決まっているからだろ」
「普通こういうのって前日にやっているものですよね!?」
「普通じゃないからな」
「そんな屁理屈な」
椅子並べ。それが仕事だった。約500個の椅子を一人で並べなきゃならないとは。

結局最後まで先輩は何もしなかった。
酷い!
「ご苦労さん。礼は後でさせてもらう。もうすぐ受付の時間だからな」
「受付?はっ、それってどこであるんですか?」
「はぁ、お前どうやって入ったんだ?」
「えっどうやってって普通に校門からですけど」
「あっそうか」
納得したらしい。
「だったら」
先輩は、胸ポケットから紙を取り出した。
「お前、名前は?」
「三木龍司ですけど」
「三木・・・三木っと。あったあった」
どうやら紙に何か書いているようだった。
「これに名前を書いてくれ」
紙の記された場所に俺は名前を書いた。
「よしっ。お前はあの席な」
そう言って指差した場所は、右側の奥の隅っこだった。
「えっと・・・」
俺が動かずにいると、
「座れって」
「あっはいっ」
言われるがまま俺は先輩が指した椅子に座った。
「もうそろそろしたら、ぞろぞろと来るだろ。それじゃ」
先輩は体育館を出て行った。
それから5分くらいで俺と同じであろう年の人がぞろぞろと来た。
あの人は一体……
しばらくすると入学式が始まった。



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