第二話「こんなことって普通はないよね」


春桜学園の入学式。それはどこの高校でもやる普通の入学式となんら変わらなかった。
校長の長い演説・担任教師の紹介があり、クラスごとに決められた教室に入って、担任の指示を受けるという。そんないたって普通の入学式だった。因みに俺は五組あるクラスの中の四組になった。
ただ、違うところもある。それは一年で俺以外全員女子だということ。まるで女子高に迷い込んだみたいで良い気はしないし、とても居づらさを覚える。こんな状況で果たして俺は3年間もこの学園で過ごせるのか、とか考えたりもする。 それにしても、なぜ男子が俺だけなのだろうか。それは多分誰もあのとてつもなく長く急な坂を上ってまで通いたいなんて思う奴はいないからだと思う。あくまで推測に過ぎないが。
担任である鈴山は数少ない男性教師の一人である。教師は全員で40人、男性はそのうち3人しかいないのである。
なんだ、肩身が狭いのは生徒だけではないのか。と何故か安堵した。
鈴山先生は体育の教師で、すごくガタイがいい。怖い先生かと思えばそうではなく、とても優しい先生だった。


翌日の学校、その日俺はひどく体調を崩していた。中でも吐き気がひどかった。
何度トイレに駆け込んだことか。
その日HRで自己紹介をすることになっていたのだが、とてもじゃないが話せる状態じゃなかった。
だから俺は、常にポケットにいれている紙に『すみません、具合が悪いので少し保健室に行きます』と書き、それを先生に渡した。
先生に、”どうした、そんなに悪いのか?”と聞かれたが、今の俺は口を開けることすら困難になっていたため、頭で返事した。
教室を出ると同時に真っ先にむかったのがトイレだった。
やばいな、こんなにひどいのは久しぶりだ。あの日以来……
昔のことを考えるとまた吐き気が生まれた。
どのくらいトイレにこもっていただろうか。だが考えがまとまらずに、いや考えることすらできなくなっていた。
そして保健室に入ると同時に、なぜか俺は意識を失った。

目が覚めたら、俺はベッドの上で寝ていた。
なんだ、夢だったのか。
そう考えたと同時にまた気分が悪くなった。
ああ、現実か。とするとここは、
「あら、起きた? 大丈夫? 三木君」
大丈夫じゃないです。そう言おうと思ったが、依然として話せる状態じゃなかった。
なので、紙にそう書いて、多分、保健室の先生じゃないかと思う人(白衣着てるし)に見せた。
先生?はすぐに理解し、
「このまま学校にいるよりも帰ったほうがいいと、私は思うわ。鈴山先生には私から言っておくから今日はもう帰りなさい」
そう言った。俺はそれに素直に従った。
ああ、坂下りるのは辛いな。
そう思いながら。

家に帰る途中何度か嘔吐したが、何とか家にたどり着いた。
今日はホントどうしたんだ、俺の体。
何もせずに帰ることになるなんて。悪い冗談だ、そう思いたい。
だがそれは冗談でも夢でもなかった。

翌朝、朝のすがすがしい光を浴びながら俺は気持ちよく起きた。
昨日の気分の悪さなど全然感じさせないほど、体調はすごく良かった。
学校に登校し、普通に授業を受ける。はずだった。
突然鈴山先生が俺に、学校の机より少し小さいぐらいのホワイトボードとペンを渡した。
「三木、お前が喋れないなんて知らなかったぞ。保健の月山先生がそう教えてくれたんだ。これは、発言したいときに使ってくれ」
な、なんて恥ずかしい。というか、喋れない?どういうことだ、勘違い?なんで勘違いするんだ?
色々考えたが、さっぱり分からなかった。
でもま、いいか。慣れれば楽だろう、多分!
そう思うことにした。



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