第五話「Entrance and no exit-エントランスアンドノーエグジット」


飛行機が不時着して3日目。

寝起きは最悪。やはり砂浜の上は寝心地が悪い。
……という理由は無きにしも非ずだが、それは根本的な理由ではない。
大本の理由は昨日の事だと断言できる。昨日の出来事は俺から精神力を奪うには十分すぎた。
最初は口では覚悟が足りてないなどと言えていたがなんのことはない。あれは俺自身に対する言葉だったのだと今更ながら自覚する羽目になった。

昨日とうとう救助はやってこなかった。
圭吾は26まで待てと言っていたが、根拠はないようだった。

「何もせずに過ごすのは暇でしょうがないんだが」

「だろうな俺としては今まで何もしてないお前を見るとは全く思わなかった」

「……どういう意味だ?」

「別に。お前のことだから、この島を探索するぞ、だの情報収集するぞ、後はそうだな、なんとしても脱出するぞ!とでも言い出すとずっと思ってたからな。だから意外だった」

「なっ、……」

そう確かに圭吾の言うとおりだ、普段の俺だったならこの島からの脱出方法を探っているだろう。それぐらいの行動力は持ち合わせているつもりだ。
じゃあなぜ今まで行動できなかったか?それはこの島の異様な雰囲気、そして飛行機の不時着から人が死ぬと言う事態それが起こりえるという可能性が存在する場所にいる。それが俺の思考から考えるという行動を無くしていたのだろう。

「よし、早速行動するか。まずはこの島の探索からだ、食料になれるやつがあるのか調べる必要もあるしな」

「勝平、お前一人で行くか?」

「え?お前もい……」

そこまで言いかけて気づく。今まで一言も発していないがここには祥子がいる。そして森の中はまるで未知、何が起きてもおかしくはないだろう。そう思わせるほどの不気味さを放っている。

「そうだな。じゃあ」

「私も行く!!」

俺の言葉を遮るように祥子は声を張り上げた。

「祥子……。一体どうした」

「お兄ちゃんとっても危ないことをしてる。お兄ちゃんをこのまま一人で行かせたらもう二度と戻って来ない気が、そんな気がするの!だから、だから私もお兄ちゃんに付いて行くお兄ちゃんがいない世界なんて耐えられない!!」

祥子は震えながらそう言った。今まで溜めていた思いの丈をぶつけるように強い声で。

「祥子がこうなったら連れて行くしかないだろうな」

圭吾の言うとおり祥子が俺のことをお兄ちゃんと呼ぶときは頑固として言うことを聞かなくなるのだ。
なぜお兄ちゃんと呼ぶと聞かなくなるのかはどういう理由かは分からないが、昔からそうなのだ。

「……分かった。だが気をつけてくれ、それだけは覚えていてくれ」

「うん!」

それはそれは満面な笑顔だった。


島を探索開始して5分程度の時間その僅か5分程度の距離に人を、人と呼ばれていたモノを発見した。

俺はとっさに祥子の目を隠した。少しでも祥子にはこれを見せたくなかった。
端から見たら木にもたれかかって座っているように見えなくもない。いやそんな風に見えるわけがない。どこからどうみても死んでいる。なぜなら首が皮一枚で繋がっている状態なのだ。首の半分から上が後ろを向いている。前からみれば頭は全く見えない。
俺達はそれを真横から見てしまった。

「酷いな、これは」

「ああ、なんでこんな死に方を。……圭吾これは獣の仕業だと思うか?」

「思えるわけがなかろう。こんなあからさまな斬り口、鋭利な刃物によるものとしか思えない」

「……だよな。それにしてもまさかこの人がこんなことになるなんてな」

「知り合いだったのか?」

「ああ、ちょっとな。俺に小屋に来ないかと誘ってくれた人だ」

「そうか、この人がそうだったのか」

今日は行動が遅かったせいで埋葬してすぐに日が暮れた。

「今日はいったん戻ろう。夜に行動するのは危険すぎる」

「そうだな。出来れば安全性を確認しておきたかったんだけどな。その方がいいだろうな」

探索はまた明日やることにして今日はもう砂浜に戻ることになった。

「斉村さん、いい人そうだったんだけどな。一体誰がこんなことを」

「さあな」

たった3日、もしくは2日で2人が死んだ。異様過ぎる、この島は本当に異様過ぎる。
或いは島ではなく人が、なのかも知れない。


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