第五話「演劇部の桜花美咲」
「あっ!貴方はあの時の!」
生徒会本部には見知った顔があった。肩まで伸びた黒髪が印象的な人使いの荒い人。入学式の時に会った人と似ていたのだ。
だが、
「……」
沈黙。
「覚えてないんですか?入学式に会った、」
「……いや、知らないな。いやしかし、折角来てもらったのに悪いが、まだ君達にやってもらう事は無いのでね。ふむ、君達には特別にこの生徒会の棟を見学させようかね。ついてきなさい」
「はい」
おかしいな、確かにあの時の先輩かと思ったんだけど。確かあの時の礼はしてもらってなかったからなぁ。どこにいるんだろうなあの先輩。
「まずはこの第一生徒会室。ここでは主に1組と2組の生徒会が会議をする場所だ。他にも、パソコンが置いてあり簡単な作業が出来るところだ。次に第二生徒会室だが、第一と同じく会議をする場所だ。第一よりもかなり広いがな。ここでは3組と4組、そして5組だな。君達はここですることになる、覚えておきたまえ。そして時に、物造り部屋にもなる。見たまえ」
生徒会長が指差したとこにはいろいろな木材やのこぎり等の道具が置かれていた。
「ここで、必要になる物を私達で作り出すのだよ。そして次の場所は……言わなくても分かると思うがただの物置部屋だ。それ以外の使い道は無い」
中には、タンスやら、本棚やら特に使い物にならなそうな壊れた物が置かれていた。
「ここは、部活動のキャプテン達が集まり報告をする場所だ。ここで毎回部の予算を報告する。次に、ここは生徒会の顧問の部屋だ」
小っさ!先生の部屋はなんと言うか合計四畳程度の部屋だった。
「小さくないですか?これは」
思わず俺は声に出していた。
「いや、これでも大きいほうだ。何しろ名前だけの顧問だからな。生徒会の仕事に関わってきた事は無かったぞ」
うっわ、本当に名前だけなんだ。
「そしてここが私達生徒会の重要地、生徒会本部だ。ここでは第一第二の生徒会室で話し合った結果をここでさらに話し合う場所なのだ。この場所に入れる者は私と副会長、書記が5名そして第一第二の代表が2人ずつだけ入れるところなのだ。しかし今書記が一人もいなくてな君達が入る事もあるだろうからその点については来週発表があるだろう」
書記か、できればなりたくないな。
「これが生徒会の棟の全貌だ。ガイドつきは今日以外はないからな、皆には黙っておくように。後は、そうだな。そこにお茶を用意してあるから、飲み終わったら今日はもう帰っていいぞ」
俺と月宮さんは、用意されてあったお茶を飲み干し、
「ありがとうございました」
一礼して俺は月宮さんの後に続いて出ようとした。しかし、生徒会長に呼び止められた。
「三木君、君は少々残りたまえ。話がある」
?
「……分かりました」
俺は少し考えたが入る事にした。
「どうしましたか、会長」
「うむ、まずは戸を閉めてそこのソファアに腰掛けたまえ」
俺は言われるがままに行動した。
「はい。それで、どうしましたか、私と話なんて」
会長の顔が広げた扇子で隠されていて表情が分からない。だが、何故か笑っているように見える。
「会長?」
―プッ
?
「っあはははは。あ〜おかしい。腹痛ぇ」
突然会長が笑い出した。
??
「いや〜。まさか会うとは思ってなかったなぁ。まっお前なら入るだろうとは思っていたが、急にどうしたんだ?」
「急にって?」
「俺が思っていたのは中学までのお前の事で、高校になってからはまず、入らねぇだろうなって思っていたからさ」
「?」
「だってお前喋らない人だったからな。中学の頃は普通にリーダーやってたお前が」
「なっなんでそれを?」
「ふっここの生徒会の情報網を甘く見るなよ」
何なんだ、生徒会の情報網って。
「まぁ、なんにせよあの時の礼はせねばな」
「あの時のって、やっぱり入学式のときの!?」
「そうだ。あの時は助かったぞ。さて礼に関してだが、次期生徒会会長の座でどうだ!」
「いりません!そんな座」
「なんとっ。これだけの部屋を一人で管理する事ができるんだぞ?」
「俺は面倒な事がいやなんです」
「そうか……だが、既にお前からのサインはもらっている事だし、次期会長は免れないのだがな。はっはっは」
「しまった!もしかしてあの入学式の時に書いたあれですか?」
「そうだ!いや〜候補がいなくてな。そんな時候補として最高の人材が出てきたってところだ。よかったよかった」
「よくないっ!」
「まぁ、それは置いておいてだ。さてなにがよいか……そうだ!あれがあった。龍司、あの時の礼としてこれをやろう!」
会長が出したのはなんとPS2のゲームだった。
「こっこれは!」
「お前が好きな、ら〇すたのいまだ出ていないゲームだ」
ら〇すた、それは日常を描いたほのぼの4コマ漫画なのだが、誰にでもある、こんなことしたな〜ということを題材にした4コマで非常に納得出来、かつ面白い!俺の中で一番の漫画である。最近アニメでもあり、見る機会が増えた人もいるのではないだろうか。それが・・・ゲーム化。今の俺にとってこんなにも引くものはないだろう。っていうかなんで会長は俺がら〇すたが好きだと分かったんだ?誰にも言ってないんだが。――はっ、こっこれが生徒会の情報網だというのか。
「とっても嬉しいです!」
「うむ、そうだろ。さらに!いろいろな限定グッズを付けて次期生徒会長にならないか?」
「げっ限定グッズ!しっしかし俺は演劇部に入っているので……会長には……」
「ふむっ、ならば名目上だけでも良いぞ。名前はお前で実際に動くのは俺がするというのはどうだ」
「やりますっ!」
即答してしまった。いや、俺を止める術はなかっただろう。それだけ俺はら〇すたが好きなのだから。
それから俺は書類にサインをして・・・サイン?
「あれっ、会長?サインしたって言ってませんでした?」
「あ〜あれ、嘘!」
「え〜!そんなぁ〜」
「ふっ、そうでも言わなければお前はやる気を起こさなかった、そう思ったからだ。実際そうだろ?」
図星である。確かにそう言われなければたとえ……たとえ……例えら〇すたの限定グッズでも、なろうとは思わなかっただろう。
「・・・負けました」
「うむ。さて、今日はもう帰れ。まっ、正式な事はさっきも言ったように来週分かる」
「は〜い」
気の抜けた返事をして俺は生徒会本部を出た。
さてっと、演劇部に向かうとするか。
部室棟の右奥の教室そして屋上、そこが演劇部の部室である。
ガラガラ。
俺は何事も無かったかのように普通に部室に入る。
誰も何も言わない。そう、それが俺のポジションだからだ。何も喋らない人で通っているからな。だが、
「三木君」
だが何故か今日に限って話しかけて来る人がいた。女の子だ。しかし名前は知らない。特徴的な事といったら背中ぐらいまでの長い茶髪。といっても薄い茶髪でほとんどが黒なんだが。全体的に、美しいって言うより可愛いって言うほうか。
「今日は来ないのかと思っていました」
なんだそりゃ。来なければ良かったのか?
「あんな事があった後だったから」
あんな事?今日はここで何か起こったのか?それとも別の何かか?
「嫌ですよね?生徒会」
生徒会?……ああ、あんな事って俺が喋った事か。っていうと同じクラスの人か。
「……私の事、嫌いなんですか?」
……は?一体どういう意味だ?
「すみません、迷惑ですよね。失礼しました……」
女の子はしゅっんとして劇の方に戻っていった。
……何だったんだ?何か引っかかるが早いとこ台本作らないとな。
いそいそと筆を進める。……いくらか経過して筆が止まる。
一気にネタ切れだ〜。さてどうするか、う〜む……
そんなこんなで時間が過ぎ今日はあまり進まなかった。
帰り道、俺は一人アニメ専門店でも寄って行こうと思っていたが、俺の横には同じ部員のあの女子がいた。もっともあの坂は彼女は普通にバスを使っていたんだがな。それから俺が坂を下りるまで待っていたらしい。俺が坂を下りたら彼女が、「一緒に帰りませんか?」と誘ってきたわけなのだが。
ふぅむ、一体どういうことだろうか。今まで俺は彼女と話した事さえないなのに、彼女はまるで親しい人と話すかのように俺に話しかけてきたのだ。まぁ、首を縦に振った俺も俺なのかもしれないが。断る理由もなかったからな。
「三木君はどうして脚本家を選んだの?」
「……」
それにしてもどうしていきなり話しかけてきているのか俺にはさっぱり分からん。彼女だって俺が喋らない人だってのは知っているだろう。何だって今日に限って……ってそうか。彼女は同じクラスの人だったな。となると黙っていても仕方ないというわけか。
「……話を考えるのが好きだからだ」
「―よかった。喋ってもらえた」
「・・・一つ聞いてもいいか?失礼な事かもしれないが」
「うっ、うんいいよ」
「失礼な事だとは分かっている、だがそれを承知で聞きたい。君は同じクラスの人か?」
「いいえ、違います。私は1組です」
へぇ〜1組か。―って、えぇ!じゃあなぜ知っているんだ?俺が生徒会に入った事を。って言うか俺が喋った事自体知らないんじゃあ?
「……ではなぜ俺が生徒会に入っているという事を知っているんだ?―あっ、すまない。一つだけだったな。」
「あっいえ、いいです。実は友達に聞きまして、それで」
「そうか、友達か・・・」
「はい」
「まぁ、もうそれはいいとしてだ。なんで俺の名前知っているんだ?ああっいや、すまない。さっきから質問ばっかで」
「えっ!?あっ……そっそれは……そのあっ、ほら、喋らない人で有名なんですよ」
「……そうなのか?」
「そうです!」
どうやら、別の方向で俺は目立っていたようだ。いや、たとえどう行動していても結局広まっていたんじゃないかな〜。ここ、1年の男子俺だけだし。……いやしかし良く考えてみれば1年の男子俺だけなんだよな。今まで喋った事もなかったからそういうの気にした事なかったんだよなぁ。
「それにしてもよく喋るな」
「そうですか?」
「ああ、だってそうだろ。同じ部活にいても喋った事なんてないし、君も俺の事は無口と思っていたわけだし、急に俺が喋ったとしてもすぐには話しかけないものだと思っていたからな」
「でも、三木君は話してくれてる」
「まぁ、俺だって人だ。話しかけられれば話す」
「じゃあ、あの時はどうして喋ってくれなかったの?」
「それは……だな。……はっきり言って脚本と劇を一緒にやりたくないからだ。俺があの場所で喋れば先輩は確実に俺を劇に出させるだろう。例え俺が演技が下手だとしても。逆に“なんでできねぇんだ!”って言われそうだしな。(微笑)」
「三木君が笑うとこはじめて見た」
彼女は嬉しそうな顔をした。って注目するべきとこそこ!?
「嬉しそうだな」
「だって今まで無表情な三木君しか見たことなかったから。一日にいろんな表情を見れて嬉しいの」
「……そうか……」
駅に着く。ちょうど電車が通り過ぎる。
あ〜あ、行っちまったか。
「……行っちゃった……」
どうやら彼女とは同じ電車だったようだ。
「……そうだな……」
過ぎ去る電車を見送りながら俺はそう呟いた。
「三木君もあの電車なの?」
呟いたつもりだったのだがどうやら彼女に聞こえていたようだ。
「ああ、奇遇だな」
次に電車が来るのは一時間後。
さて、これから1時間どうすっかね。
俺は腰のポケットからあるものを取り出す。
「……三木君それは?」
彼女が聞いてきた。
「ああ、これ?アイマスク。寝るのには最適なんだ。」
「へぇ〜。」
「じゃ、おやすみ」
「うん、おやすみ」
……
……
…
「ああ、そうそう。君名前は?まだ聞いてなかったの忘れてた」
俺は彼女の名前を聞いていないことを思い出し、唐突に起き上がって聞いた。
「うひゃぁ!」
彼女は驚いたのか、なんとも奇妙な声を上げた。
「ああ、すまん。驚かせたな」
「いえ、体調は大丈夫です」
?どうやら、彼女の頭はパニック状態になっているようだ。こちらに返ってくるのはいつ頃だろうか。
そう思いながら、とりあえず俺は彼女が正気に戻るまで待つ事にした。
それから何十分経っただろうか、彼女が正気に戻る前に電車が来てしまった。
っておい、大丈夫なのかよ!?
とりあえず俺は彼女を揺すったが、反応は無し。
「お〜い、電車来たぞ〜」
話しかけてみたがこれも反応無し。
ったく、世話が焼ける。
俺は……さてどうしよう。
1,彼女を抱いて電車に乗る
2,次の電車が来るまで待つ
3,彼女を置いて自分だけ乗る
4,彼女を無理矢理起こす
どうする俺!?1の選択肢は何か恥ずかしいし、かといって3の選択は人として駄目だし、4の無理矢理起こすってのはしたくないし、だからといって次の電車が来るまで待つってのは長いし、え〜い!どうする、俺!
プワァァァァ〜
電車が次の駅へと向かう。駅には俺と名の知らぬ彼女の姿があった。
はぁ〜。
深いため息を一つ。
また1時間続行!やるせねぇ〜。あんな唐突な質問するんじゃなかった。なんて今更後悔したって遅いんだよなぁ。
ふぅ。
さらにため息一つ。さて、1時間も何をするか。あっそうだ、物語でも考えるか。俺はバックから1冊のノートとシャープペンシル(通称シャーペン)を取り出した。シャーペンの芯を出しノートに向かう。
グキュルル〜。
腹が鳴る。そうか、もう夕飯刻か。
腰を上げ、売店へと向かう。
「すいませ〜ん、これください」
「まいど」
購入した物はおかかのおにぎり、ツナマヨネーズおにぎり、タマゴサンドイッチ、鮭おにぎり、銀チョコパン、チョココロネ、牛乳もちろんビンの、おちゃ、そしてAQERIAS(通称アクエリ)だ。俺はそれを持って再び駅の席へと戻る。
俺が戻る頃彼女は起きていた。
「おっ、やっと起きたか。目覚めはどうだ?」
「あっ三木君!」
彼女は駆け寄り抱きついてきた。
???
グキュルル〜
また腹が鳴る。
「飯、食おうか」
俺は買ってきた物を見せながら、そう言った。彼女は笑いながら、
「はいっ」
そう答えた。
「何でも好きな物食べていいよ」
「あの、すみません。奢ってもらっちゃって」
「いいよ。別に」
彼女が手に取ったのは、なんとチョココロネだった。
……えっ?……まぁ、確かに何でもいいよとは言ったがチョココロネを取るとは。失態だ!俺にとってチョココロネは一番大好きな物であって、それを上回る物は無いと言ってもいいくらいだ。
もっとも、顔にはそんな表情は出さないのだがな。
代わりに俺はおかかを食べる。にしても、彼女嬉しそうに食べているな。もしかして。
「……君、チョココロネ、好き?」
聞いてみた。
「うんっ、とっても」
「へぇ〜」
「……」
「……」
「あっ、そうだ。ちょっと聞いていいかな?」
「うん、いいよ」
「君、名前は?」
「えっと、三木君覚えてくれてないんですか?」
「あったことあったけ?」
「私、三木君と同じ中学だったよ」
「えっ!?いやそんな馬鹿な。俺のいた中学でここを受けたのは確か俺だけだったぞ?」
「だって三木君集合場所に来てなかったもんね」
「は?集合、場所?」
「うん。えっと、学園行きのバス停の前だったよ」
「そんなこと聞かされてないぞ。はっ、まさかあの教師、わざと何にも知らせなかったのか?!」
「でも、私驚いたよ。三木君ここ受けてないと思ってたから」
「しかし、……すまん!君の事はどうも覚えていない」
「……そう……」
なんとも気まずい雰囲気になってしまった。
「……三木君は覚えてない?中学の頃いじめられていた女の子の事」
「いや、覚えている。あれは確か1年の頃だったな」
俺は鮭おにぎりへと手を伸ばす。そして封を開け口の中へと放り込む。
「いじめ、られて、いた、原因は、よく、分からなかった、が後に事は収まったんだったな」
口の中におにぎりが入っていたので途切れ途切れになった。
「うん。三木君のおかげでね」
「?俺のおかげ?俺はあの時直接的な介入は一切しなかったぞ?あの時の事件は先生が丸く治めたじゃないか」
「うん、表ではね」
途端に俺は一気に赤くなる。
「お、表、では、とは」
緊張のあまり息が続かない。
「皆知ってるよ。あの時三木君が必死になってあの女の子をいじめていた人達に説得をしに行ったり、先生にも事情を話して先生から言ってもらったり。先生が動いたのも三木君が必死に言ったからなんでしょ?」
「……知ってたのか?まぁ、そうだな。俺は人だ、いじめられている人を見て見過ごす真似が出来ようか。だが、直接的に現場を目撃しながら止められなかった。本当なら止めたかったのだが、あの時は何も出来なかった。俺はその時自分に対して非力を感じた。ものすごく悔しくなった。だから後悔はしたくない、そう思ったからこそ、俺はあの時ああいう行動を起こしたのだ。あの人には今でもすまないと感じている、直接守ることができなかったから」
俺は、そう言い終った後、ツナマヨネーズへと手を伸ばし口の中に放り込む。
「そう、だったんだ。……でもあの女の子は嬉しかったと思うよ、だってあれ以来友達が出来たし、クラスにも打ち解けるようになった。三木君には感謝しても仕切れないと思うよ」
「そうか?」
「うん、絶対そうだよ」
「……まぁ、そう思ってくれていると俺も救われるってもんだな。それよりも、今の話と君の名前、どう関係があるんだ?」
「……分からないの?」
「何がだ?」
「実は、……あの女の子が……私なの」
……
一時の沈黙。
「……って、えぇ!?」
さすがの俺も驚きを隠せない。
「じゃあ、桜花、美咲……さん?」
「うん。でも三木君、私のこと覚えてくれてなかったんだね」
「いや、俺の記憶にある桜花さんと今ここにいる桜花さんとはまるで違うからな」
「そう?」
「ああ、可愛くなったよ」
「そう、かな?」
「ああ」
プワァァァァ〜
電車が駅に到着する。
「やっときたか。さ、乗ろうか」
荷物を抱え桜花さんを誘う。
「あっ、あの、どうして私の荷物も持つんですか?」
「そうすれば桜花さんも乗らなければならなくなるからな」
「大丈夫です、荷物なら自分で持てます」
全然会話がつながってね〜。っていうことは?また正気を失ってる〜。何なのだこれは。もはやこれは体質のようだな。って感心してる場合じゃね〜、起こさねぇ〜と。
「桜花さん?起きてください!」
電車の中でなにやってるんだ、俺?
「心配しないで下さい、これでも得意なほうなんですよ」
「正気を確かに!」
「大丈夫です。箸なら持ってます」
意味分からん!
はぁ〜
ため息を一つ。
どうすればいいんだ?桜花さんを。さすがにこのまましとくわけにもいかないしな。だが話しかけても桜花さんには届かないし、揺すってみても反応しないし何か他に手は……
「次は〜秋の原」
アナウンスが鳴る。
降りる所なのだが、桜花さんを置いていくのはちょっとな……
「三木君、私ここだから」
ビクッ
思わず跳ね上がってしまったぞ。
「あっ、ああ。にしても起きてたんだな」
「起きてたって?」
「いやなんでもない」
そういって俺も降りる。
「三木君もここなんだ」
「まぁな。まっ、折角だし送るよ」
「ええっ、そんな、悪いよ」
「気にすんな。昔のよしみとしてだ。それに遅いしな、まぁ迷惑料としてだ」
「でも私のほうが迷惑かけてなかった?」
「気にすんな」
帰りゲー〇ーズに寄ろっと。
そんな思いを胸に秘め、俺は桜花さんを送る事にした。
「私の家、遠いよ」
「大丈夫だ。こう見えて脚はものすごく鍛えられている」
「……ありがとうございます」
「どうした?急に敬語になって」
「うん、今日はずいぶんいろいろな事があったから。三木君とこうして話す事が出来て本当に嬉しかったんです」
「そうか?まっ、俺で良いんならいつでも話し相手になってやるよ」
言って微笑。
「ありがとう、三木君」
この時桜花さんは今迄で最高の笑顔をしたことは本人も、もちろん俺も知らない。
「今日は本当にありがとう、三木君」
「気にすんな。(微笑)じゃぁな、今度会うときは、運がよければ月曜だな。たぶんほとんど部活のほうには顔出せなくなるだろうからな」
「うん、そうだね。でも仕方ないよ、三木君生徒会に入ったんだもんね。……おやすみ」
「ああ、おやすみ」
龍司は桜花さんの家を後にする。
さ〜てゲーマーズに向かうか!
「――えっ?嘘だろ!?」
既にゲー〇ーズは閉まっていた。そして追い討ちをかけるように店の前には
『お客様には申し訳ありませんが少しの間休業させていただきます』
俺はその場で気絶した。
気がついたのはあれからどのくらい経ってからだろうか。俺は急ぎ携帯を開き時間を見る。
「にっ、25時だと!?いっ急ぎ帰らねば!」
さてどうするか。家の前までは来たもののどうする。
1,正面突破
2,素直に謝る
3,正面から忍び込む
4,気づかれずに自分の部屋に外から突入する
よしっ、ここは4を選択しよう!だが問題はどうやって自分の部屋に入るかだ。部屋は2階の窓側、入るにはもってこいだな。幸い近くに壁もあるこれをつたって行けば入れるかもしれん。いざ、勝負!
壁に足をかける、手で壁の天辺を掴み一気に体を持ち上げる。
よしっ、あとは窓に移るだけなのだが、直接窓へと繋がる物はないとなると手は一つ!飛び移るしかない。細い足場の上でバランスを取り威力をつけようと手を振り脚を曲げるそれを続けながらタイミングを計る。
俺の神経は今まさに研ぎ澄まされている。
今だっ!
勢いよく飛ぶ。
届け〜!
ガッ!
運よく、俺の手はがっちりと手すりを掴む。
危ねぇ〜。もう少しで大怪我もんだったぞ。後は、よっと。
軽がる体を持ち上げ部屋の中へと入る事に成功した。
「は〜、やっと帰ってこれた。今日はもう疲れたな〜。先輩からもらったゲームをしたいとこなんだけど今したらばれちまう可能性があるからな。おとなしく寝るか」
長い一日はようやく終わりを告げた。
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