第二話「Bad-バッド」


飛行機が不時着した当時は乗客は当然パニック状態に陥っていて、機長やCAに当り散らす。
そんな光景もさながら当然の如く見受けられた。
不時着の原因は飛行機の後部爆破。なぜ爆破したのかは分かっていないようだ。
エンジントラブルなのか、或いは誰かが爆弾を仕掛けていたのか。
とにかく原因は不明、とのことらしい。確かめようがないのでらしいとしか表すことが出来ないわけだ。
乗客約20名は全員無事とのこと。爆破が起こったのに無事なのは奇跡としか言えないだろう。
俺達が不時着した場所は辺りを海で囲まれた絶海の孤島。
どの場所から見ても海の向こう側に島が見えることは出来ない。もっともこの情報は飛行機から確認した限りのことで、実際にどんな感じなのかは分からないことではある。
携帯はこれまた当然圏外。外部との連絡方法はなし。
俺達はこの島にあらゆる面で縛られたということだ。


「……おい、これは一体どういうことなんだ。聞いてないぞ!俺までここにいるなんてよ。――な、なんだって……く、くぅ。そうだなその通りです。――ええ、言うとおりの場所です。――えっ、26日!そんなにですか。――はい、わかりました。――えっ!?」
この会話は機長が誰かに向けて無線機を使用して行われたものである。もっとも、俺が聞けたのはこの部分だけで何のことを言っているのかは想像つかなかった。
無線機はどうやら会話終了時に爆破されたみたいだった。
おそらく外部との最後の連絡方法だったであろう物もこれでなくなったわけだ。
しかし、皆一様にどこか慌てる風でもなくむしろどっしりとして、悠長に構えていた。
おそらくだが、全員の心の中には「どうせすぐに迎えに来るだろう」という思いが不安を打ち消すぐらいの割合で占めているのだろう。
確かに世間的に飛行機が不時着した、などといえば中々のニュースになるだろう。
それに対して救助隊が出動しないとなるとそれもまた中々のニュースになるだろう、見殺し的な意味で。
だが、なぜか、本当になぜとしか言いようがないのだが、なぜか俺は来ないだろうと思っていた。
それはもしかしたら先ほどの機長の無線機での会話が原因かもしれなかった。

「なぁ圭吾、この状況どう思う」
俺は一緒に機長の話を聞いていた圭吾に聞いてみる。
「この状況、それは俺達以外の乗客が楽観していることか?それともこれから先起こりえる事態についてか?」
「そりゃあお前……どっちもだな」
「ふむ、どちらも一まとめにして言ってしまうとかなり危険、としか言えないな。乗客の点については自分が絶対に助かると思っている。助からないとは絶対に考えていない。こういう時に気持ちが助からないと分かるとパニック状態に陥りやすい。というのが理由だな。そしてこれから先起こりえる事態の点についてはこの島がどんな島なのかまるで見当がつかない、だから何が起きても不思議ではないと言い換える事が可能だ。だから危険というわけだ」
確かに圭吾の言うとおりだった。乗客が楽観しているということは即ち死を考えていない。思考が生きたいではなく生き残れて当然。そう考えている。それは今の状況において危険極まりない考え方だ。 しかし、俺達も楽観視していないとは一言には言い切れない。
明日になればいつもの日常に戻れている。そう、考えてしまう。いや、そうなればいい。
いっそのことこれが全て夢だったと黒幕みたいな奴が出てきてそう言って欲しい。

だから、俺達は何も出来なかった、何も。

だからこそ、何もしなかったからこそ俺達は後悔したのだろう。
もう、物語は始まった。


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