第3話「Cage-ケージ」
飛行機が不時着して一日が経過した。
俺達は寝床と呼べる場所はないため砂浜の上で寝ることにした。どうせ一日だろうと思って妥協したわけだ。
当然砂浜の上で寝たのだからお世辞にも寝心地が良いとは言えない。まぁ、お世辞を言う必要もないのだが。
俺は起き上がると同時に体に付いた砂を払う。
「それにしても」
俺は辺りを見渡す。やっぱりこれが現実か…。
目に映る風景は広大な海とあとは島の森ぐらいだ。
なんていうか起きてみたら飛行機が不時着!なんてのは夢で今俺は正に飛行機の中でした。ってだったら最高だったのにな。もっとも、俺の体に砂が付いてた時点でありえないんだけどな。
「なぁ圭吾、起きてるか?」
俺は俺と同じく砂浜で寝ていた圭吾に話しかける。もちろんといっちゃあなんだが、祥子も砂浜で寝ている。
「ああ、目は覚めている」
圭吾はそう答えるだけで、すぐには起き上がらなかった。
「俺は朝は弱いからな、すぐに動くと貧血を起こすんだ」
圭吾はかるーく読心術を使えるようだった。
「それより、勝平。周りの様子はどうだ、あの他の乗客たちは」
「ああ、あの妙に楽観視してた人達か。さあな、砂浜には姿が見えないから大方森の中で過ごしたんじゃねぇのか?ここにいるのは俺達とあとは機長とCAぐらいだぜ」
「そうか、確かに言われてみれば昨日森の中に小屋があるからそこで寝ようぜ、などと聞いた覚えが……微かにあるな」
「ああ、でも俺達はこんな未知の島に暗いうちに森に入るのは危険だと判断してここにいたんだったな。多分、機長たちも同じ判断だったんだろうぜ」
「どうだかな。……ところで勝平。無人島で生き残る方法を知っているか?」
「は?そんなこと考える必要あるのか?今日迎えが来るはずだろうし考える必要ないだろ」
「お前は……昨日自分で言ったことをもう忘れたのか。いいか。まず第一にいつ、どこで今日迎えが来ると聞いた?そして第二にこの事故は本当に世間に知られているのか?そして第三、本当にこれは事故なのか」
圭吾は呆れた声でとんでもないことを口にした。
「じゃあ、圭吾。これは事故じゃないって、言いたいのか?」
事故ではない、だったらこれは誰かが仕掛けた犯行。
「さあな。事故かもしれんし、事故じゃないかもしれん。だが、事故と言い切れる保証もないし、事故じゃないと言い切れる保証もない。この場合思考しなければならないパターンは最悪のパターンだ。最悪、つまりは事故ではないというパターン。元から誰かがこの島に着かせることを目的としたパターン。それから思考するとこの島には長く滞在しなければならない。ということになるわけだ」
「待て待て、話が飛んでいる。どうしてそれでこの島に長く滞在する理由になるんだ?」
「決まっているだろう。その犯人が意図的に救助隊を来させないようにしている。或いは日時を指定している。という可能性があるというのが理由だ」
「……それで最初の問いに戻るってわけか。確かになかなかぶっ飛んだ考え方だが、ありえないからこそその考え方にのっとって行動すると生き延びやすいってわけか」
「その通りだ」
「無人島で生き残る術ねぇ…。やっぱ、食料の確保じゃねえのか」
「うむ、その通りだ。後は脱出の手段の作成も挙げられる。だが、これはいささか無理がある。俺達で作れるのは精々イカダが精一杯だろう。しかしイカダではどこにもたどり着けないからな」
「?それはな」
「きゃぁあああああああああああああ」
俺の疑問は一つの悲鳴で遮られた。
「森の中からだ!おい、圭吾。どうする?」
「見に行って来い。俺はまだしばらく動けそうにもないからな。祥子を見守っといてやる」
俺は祥子を起こして行こうと思っていた。だが、圭吾がそう言うのでなんとなくためらわれた。
「おう、頼む」
俺は悲鳴がしたほうに駆け出す。
確かこっちからしたような。
でも、俺は一体行って何をしようとしたのだろう。相手が動物なら悲鳴を上げた人を助ける?特に知りもしない人を?何故?もしくは信じたくはなかったのかも知れない。生き残れない可能性を。だから俺は急いだのかもしれない。ありえないとそう自分に言い聞かせながら。
あ、あの人か。
俺は眼前に尻餅をついた人を見つけた。
良かった。俺はなぜかそう思った。だが、それは間違いだったのだとすぐに気づいてしまった。なぜかって?そんなこと決まってるだろ。ここで俺が気づくことなんてたった一つしかないだろ。
俺は尻餅を付いた人の前に、無残に切り裂かれた人の姿を確認、してしまった。
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